がんになりました

公衆衛生医が乳がん治療中に体験したこと、調べたこと、感じたこと、考えたことを記録していきます。

【このブログについて】
1つ目の化学療法を無事終了した後の2019年9月上旬に、がん治療中であることをFBでカミングアウトしました。記録と情報共有のつもりで治療体験をぼちぼちアップしていましたが、情報共有にはFBは適切なツールではないと考えて、こちらに移って来ました。ですから、はじめの方の記事はリアルタイムではなくFBからの移動記事です。(初出日を書いておきます。)

一生に2人に1人ががんになる時代、がん患者さんのブログは数多くあり、私も参考にさせていただきました。「みんなの健康」をめざす社会医学である公衆衛生を専門とする者として、信頼できる情報源などを引用しながら、少し違った角度から治療体験をシェアできたらと思います。

【がん患者さんにぜひ利用していただきたいサイト】
がん、と言っても、臓器、ステージ、タイプ、患者さんの年齢や性別によって、症状も治療も予後もさまざまです。がんと診断されて、どのような情報をたよりにしたらいいかわからない方、リンクにあげた3つのサイトをまず見て見て下さい。

「がんになったら手にとるガイド」は、臓器別ではなく、いわば総論と情報をどこで入手したらいいかがわかりやすくコンパクトにまとめられています。無料ダウンロード版もありますが、書籍版も223ページに63ページの別冊も付いて968円(税込)です。がん患者さんみなさんに、まさに手にとって欲しいです。

3つ目の「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」は乳がんのものですが、いろいろな学会が同様の患者さんのためのガイドラインを出しています。ぜひ探してみて下さい。

【標準治療とは】
上記で紹介したような診療ガイドラインには、「標準治療」が掲載されています。標準治療とは、科学的根拠に基づいた、現時点で最良の治療のことです。科学的根拠とは、これまでの研究結果の蓄積がもとになっています。通常1つの研究だけでは、強力な「根拠」とはなりません。

医学研究は多くの症例を集めて統計学的解析、つまり確率による分析をしているので、一見わかりにくいです。それよりも、誰かが「これが効いた」という具体的なエピソードの方がわかりやすく、飛びつきたくなりがちです。でもひょっとしたら、その「効いた」ことはたまたまで、他の多くの人には、むしろ害になる可能性さえあります。メディアが、まだ強力な「根拠」になるとは言い難い研究結果をセンセーショナルに伝えていることもあります。

がん治療には膨大な研究の蓄積があり、わからないこともまだ多くありますが、わかっていることも多くあります。「患者さんのためのガイドライン」などでは、科学的根拠を平易な言葉で説明していますから、まずそれをたよって下さい。

【情報収集の時に注意する点】
医学は日々進歩しています。いつの情報であるかには注意する必要があります。

わかりやすい例としては、化学療法と言えば、ドラマなどでも吐いているイメージが強いですが、近年の吐き気止めの進歩で状況はかなり変わってきています。

標準治療も変わります。新しい治療法が、それまでの標準治療より優れていることが証明され推奨されれば、その治療が新たな標準治療となります。

【筆者の乳がんと治療の経過】
2019年5月、54歳の時に乳がんと診断されました。ステージII、サブタイプはトリプルネガティブです。

6月27日から11月14日まで術前化学療法を、12月13日に手術を、2020年1月17日から7月22日に術後化学療法(経口)受けて、治療を終了しました。<術前化学療法>
化学療法は術前に受ける方法と術後に受ける方法があります。術前に受けるメリットの1つに、大きさが小さくなれば乳房温存ができると言う点にあります。私の場合、小さくなっても温存は難しいだろうと主治医は考えていましたし、個人的に温存に関心もありませんでした。もう1つのメリットは、後述の「術後化学療法」を追加できると言う点です。

2つ目の理由で主治医に勧められ、手術前に以下の化学療法を順に受けました。

  • dose dense EC(エピルビシン+シクロフォスファマイド2週間ごと) 4クール
  • パクリタキセル 毎週12クールの予定が、白血球減少がなかなか回復せず3クールで中止
  • ドセタキセル 中止になったパクリタキセルの代わりに、3週間ごと3クール

dose dense ECは白血球減少が著しいため、白血球を増やす薬(顆粒球コロニー形成刺激因子製剤)とセットになっています。パクリタキセルはdose dense ECほど白血球減少は起こさないのですが、私はかなり下がり治療が中断してばかりいたので、途中で同系統で顆粒球コロニー形成刺激因子製剤との併用が可能なドセタキセルに変更になりました。(パクリタキセルでは使えません。)

<手術>
右乳房全摘+リンパ節郭清術を受けました。「センチネルリンパ節」手術中の病理検査で転移を認めたため、レベルIの範囲で他のリンパ節も取ることになりましたが、結果的にはセンチネルリンパ節1つだけの転移でした。

センチネルリンパ節は、いちばんはじめに転移するリンパ節です。手術中に1〜数個取って病理検査(がんの転移があるかを顕微鏡で確認する)をして転移が認められなければ、他のリンパ節を取らない、と言う方法が主流になっています。手術中にセンチネルリンパ節を同定できるように、前日に放射性同位元素(色素の場合もある)をがん近くに注射します。

<術後化学療法>
2020年1月17日からカペシタビンをB法(2週間服薬後1週間休薬)で8クール内服を受けました。

私のトリプルネガティブを含めがんのタイプによっては、術前化学療法を受けた後の手術標本で、がんが完全消失(病理学的完全奏功=PCR)していなかった場合、術後化学療法を受けます。私が治療を受けていた頃は、まだ「標準治療」にはなっていなかったのですが、有力な研究結果があり、この治療を実施する病院も増えているようでした。病院が「適用外使用」の申請をしたので、標準治療でなくても保険適用されました。この治療方法は、標準治療となる可能性が高いとされているようです。

【筆者について】
公衆衛生、特に国際保健を専門とする医師として、現在は大学で国際保健や疫学などを教え、保健NGOを運営しています。

大学教員としてのプロフィールはこちら
https://nrd.nagoya-cu.ac.jp/profile/ja.4d4724de3d487e38.html

運営するNGOのウェブサイトはこちら
http://plaza.umin.ac.jp/biph/

プロフィール
id:mm-higuchi99 はてなブログPro
ブログ投稿数
58 記事
ブログ投稿日数
33 日