がんになりました

公衆衛生医が乳がん治療中に体験したこと、調べたこと、感じたこと、考えたことを記録していきます。

組織的公正と病気の報告

同僚の先生や指導している大学院生などと、いわゆるゼミを月2回やっています。おおよそ、前半は担当者が英文論文を読んでその内容を発表し参加者で討論する「ジャーナルクラブ」、後半は大学院生による自分の研究進捗発表です。

いちばん最近のジャーナルクラブでは、女性の労働環境と保健医療へのアクセスの関係を研究している大学院生が選んだ、組織的公正と病気の報告の関係に関する論文を読みました。「組織的公正」というと堅苦しく感じますが、要は、偏っていない、不公平でない職場、ということです。職場において、意思決定の手順やプロセスが公正であることや、上司の部下に対する接し方が公正であることなどを含みます。(専門的になりますが、詳しく知りたい方はこちらが参考になります。上記の論文を発表した教室のサイトです。)

読んだ論文は、慢性疾患を持って働いている人が、自分の職場を公正だと感じているかどうか(13の質問で測定します)と雇用主に自分の病気を報告しているかを質問票で尋ね、職場を公正だと感じている程度と病気を報告しているかどうかとの関連を調べたものでした。全体では76.5%の人は自分の病気を報告していました。そして、自分の職場を公正と感じている程度を、低い、中程度、高いに分けると、程度が低い人に比べて、高い人は自分の病気を職場に報告している割合が高い、という結果でした。

職場を公正と感じている人は、病気を報告しやすい、というのは、まあ、予想通りの結果でしょう。この研究の対象となった「慢性疾患を持つ人」の中にがん患者も含まれるのですが、「がんと共に働く」ことに関する本やサイトでは、職場に理解と支援を求める重要性が説かれています。

では、振り返って自分はどうかというと、職場では限られた人にしか報告しませんでした。学部長、教務委員長、講義の順番を変わってもらった先生2名、一緒に海外出張に行く予定だった先生1名くらいでした。昨日も書いたように、裁量労働、個室、バイトさんなどの恵まれた条件があって、かなり「セルフサポート」で解決できたということもありますが、やはり「心配されたくない」「これを機に”戦力外”と思われるのは心外」というのはあったと思います。不公正な職場というわけではないのですが、カミングアウトしにくいという心理はどうしても働きました。

働く人の妊娠や子育てとの両立について、まだ不十分とはいえ、徐々に理解が進んできています。がんを含めて慢性疾患を持つ人が、働く世代を含めて増えているのですから、こちらに関しても、制度のみならず、相互理解と助け合いがますます必要でしょう。そのためには、自分から理解と支援を求める姿勢も大切かと思います。己のことは棚にあげて、ですが。

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ゼミメンバー。今回の撮影ではなく、たまたまゼミが私の誕生日と重なって、ケーキでお祝いしてもらいました。化学療法中でしたが、食べられました。