がんになりました

公衆衛生医が乳がん治療中に体験したこと、調べたこと、感じたこと、考えたことを記録していきます。

開発途上国のがん

(初出2019年12月16日)

自分の治療のことではないのですが、、、

12月7-8日の「日本国際保健医療学会」に参加しました。今年は演題を出さなかったのですが、毎年これに合わせて運営しているNGOの理事会をしているので、津まで行ってきました。(カラオケのおじさんを驚かせてしまったのも、このために友人と泊まった宿。)

どの学会でもそうだと思いますが、この学会もトレンド(動向)があります。開発途上国(というか最近は低中所得国と言いますね)でも、慢性疾患(≒非感染症)への関心が近年どんどん高まっているなと感じます。(ちなみにもうひとつの波は、日本で暮らす外国人の健康問題。)

中でもchildhood cancerに関する特別企画があったのには「ここまで来たな」と思いました。まずは、子どもからではあるようですが。

高所得国(いわゆる先進国)では小児がんの治癒率は80%であるのに対し、低中所得国では20%。WHOはこの80-20ギャップを克服し、2030年までに世界での生存率を60%まで引き上げようという目標を掲げているそうです。

低中所得国での治癒を妨げているものは何か?
1. 診断されない
2. 診断の誤りもしくは診断の遅れ
3. 治療へのアクセスが困難
4. 治療の放棄(続けられないということだと思います)
5. 化学療法の毒性による死亡
6. 高い再発率
とのこと。(このあたりは↓にも書かれています、英語ですが。)
https://www.who.int/news-r…/fact-sheets/…/cancer-in-children
1〜3くらいは感染症で議論されていたことと大きな違いはなく、4も結核HIVではあったよなあ、、、とまずは感じました。

さて、WHOのファクトシートによると「ほとんどの小児がんジェネリック薬と、手術、放射線を含むその他の方法で治療が可能であり、どのような経済状況の国でも、治療には費用対効果がある。」としています。学会でも費用に関する質問が出ていましたが、特に妙案と言えるほどのものはなく、各国で持続可能な方法で予算を確保していく、という程度のようでした。

慢性疾患も、心疾患、呼吸器疾患、糖尿病、高血圧、高脂血症、、、と他にも治療していかなくてはならないものがまだまだたくさんあり、その中で「持続化な方法で予算を確保していく」のは困難が伴うと思われます。

確かに化学療法の歴史は古いですから、ジェネリック薬はあるのでしょう。ただ、自分が化学療法を受けて知ったのは、化学療法薬より骨髄抑制(白血球低下)や嘔気嘔吐などの副作用に対処するための薬の方がずっと高いということ。新しく開発された、ジェネリック薬のない薬があるので。そして、それらの恩恵によって、大きな困難もなく化学療法を続けられたということ。

これらの薬の値段が下がらなければ、5と6(4の一部の原因も)は克服できず、治癒率は上がらないのではないか? かつてHIV治療薬の値段が高く、多くの低中所得国の患者がアクセスできない中、「公衆衛生危機」として薬価、つまりは特許の問題に取り組んできたようなアプローチが必要になってくるのではないか?と質問したかったのですが、できずに終わってしまいました。

どなたかこの方面に詳しい方、ご教示いただけると嬉しいです。

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