がんになりました

公衆衛生医が乳がん治療中に体験したこと、調べたこと、感じたこと、考えたことを記録していきます。

薬の値段

院外薬局で「ジェネリックにしますか?」と尋ねられて、今回ももちろんジェネリックにしました。

開発途上国での医薬品へのアクセスを研究したことのある者としては、ジェネリックの普及は、アクセス改善と、ひいてはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人が、基本的な保健医療サービスを、必要な時に支払いの心配なく受けられる状態)につながると考えています。

カペシタビンの価格について予備知識はなく「ジェネリックなのでそんなに高くはないだろうな。」と漠然と思っていたら、意外にも薬局での支払い(3割負担)が8,250円でした。調剤技術料や薬学管理料を除いた薬剤料(薬の値段)は2,590点(25,900円)。1回7錠、1日2回、2週間なので、196錠分なのですが。

ジェネリックでこの値段なら、ブランド名ゼローダではいくらなんだろう?とさっそく調べてみました。ゼローダは346.4円、後発薬(ジェネリック)は6社から出ていましたが、いずれも131.8円でした。約2.6倍。

日本では、特許申請から原則20年間、最大25年間の特許期間があります。実際は特許が申請されてから、新薬として承認されるまで時間がかかるので、先発薬として独占販売できるのはもう少し短いようで、ゼローダは販売開始が2003年6月、特許が切れたのが2015年3月となっていました。

いちばん早く販売となったジェネリックは2019年1月からとなっていましたから、まだ1年です。治療が1年以上前ならこの価格の恩恵に預かれなかった訳です。

特許を含む知的財産権は、世界的に認められた権利であり、新薬の開発には時間もお金もかかっているので、特許期間があるのは当然だと考えられているようです。各国の法律だけでなく、国際条約も影響力も大きいです。そのような中、開発の元をとって適切な利益を得る以上の価格設定になってはいないか、期間は適切なのか、健康という基本的人権に影響する薬の扱いが他の商品と同じでいいのか、などは議論があります。

特に、HIV治療薬については1990年代後半頃から2000年代前半頃に世界的に大きな議論となりました。そして、「公衆衛生上の危機」と国が判断した場合は、特許権者の許可がなくても、国際条約の例外として特許医薬品の製造ができるようになり、HIV治療が大きく変わりました。現在開発途上国を含めた多くの国で、HIV治療薬は入手可能な値段となり、HIVがコントロール可能な疾患になってきています。

がんを含めた慢性疾患が、世界的に公衆衛生上の問題となっている今、薬の値段については、もっとみんなが関心を持って議論していく必要があるのではないかと思います。

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