がんになりました

公衆衛生医が乳がん治療中に体験したこと、調べたこと、感じたこと、考えたことを記録していきます。

「元気になるシカ!」

職業柄、一応「エビデンス(科学的根拠)」のあるものを情報源とするようにしています。

同じ学年の子どもでも身長差があるように(子どもの1年差は大きいというなら同じ生まれ月の子どもでもいいです)、人の生物学的特性には個人差が必ずあります。病気の経過や治療効果も同じこと。ある人にとても効果があった治療方法が他の人にも同じように効くとは限りません。さらには、身長だと測定結果が他の要因で変わることはまずないですが(身長計が壊れていたとか、靴を履いて測ったとかない限り)、治療効果には他の要因が絡んでいることもしばしばあり、本当にその治療が一般的に効果があると言えるのかは、慎重に判断しなくてはなりません。

ざっくりと言えば、集団を対象としたきちんとした研究をもとに、慎重に判断された結果が「エビデンス」です。現在の標準治療は、基本的にエビデンスに基づいています。

という世界で生きているので、ブログや闘病記などで「私はこうでした。」というのにはあまり振り回されないでいると思います。

もちろん医学の世界では「エビデンス」だけを振り回しているわけではなく、患者の語り「ナラティブ」も大切にしています。ただ、患者さんが、他の患者さんのブログや闘病記で一喜一憂するのはちょっと考えもの。先日も同じ病気、同じステージの方から「いろんなブログで再発や転移の情報が目について読んでは落ち込んで泣いたりしていました。」というメッセージをいただいて、冷静になるための情報源の重要性を改めて実感しました。

そんな私ですが、かなり何度か読んだ闘病記があります。同じ病気の友人から貸してもらった「元気になるシカ!」と「元気になるシカ!2」です。36歳の時に卵巣がんで手術を受け、ステージIcだったため術後化学療法を受けたという、漫画家藤川るりさんの治療と社会復帰の記録マンガです。

はじめに借りた時はまだ治療前でした。「医学監修も受けていて、けっこう冷静に書かれているなあ。」と好印象は持ったものの、治療前ということもあって、見過ごしていたところも多かったのですが、自分の治療が始まると「あるある」と思えるところがたくさんありました。そして、読み返しては元気をもらっていました。

アマゾンレビューで「トップレビュー」となっている腫瘍内科医の投稿(2016年10月15日)も興味深いです。「初めてのがん治療で困惑する患者さんの心理状況とその変化を、主人公の表情で微妙に表現できる漫画の良さがある。」そして、患者さんやその家族、一般向けだけでなく「医療者にとっては患者さんの心理を知るために大変役に立つことから、推薦したいがん治療漫画といえる。」と書いています。

上記の腫瘍内科医は、注目した点をページ対応で列記していてかなり長いレビューなのですが、ひとつだけぜひ紹介したいのは以下。

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p74 吐き気止めの実際:「あまり薬追加したくないって思っていたけど、無理せず早めに飲めば良かった」
→せっかく多数の吐き気止めが開発されているのだから、利用しなけば損。がん治療の発展は、新規抗がん剤以上に強力な吐き気止めが使えるようになった恩恵が大きい。なるべく薬は使いたくないとか、副作用が怖いという人が多いが、抗がん剤そのものによる副作用に比べれば軽すぎて、誤差範囲に近い。
「なるべく薬は使いたくないので、手術の時は麻酔無しでお願いします」と言う人はまずいない。
抗がん剤治療も吐き気止めを存分に使わないのは麻酔をけちった手術に近いことを知ってほしい。

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ここは自分も、同じように感じていました。私も印象に残ったところはたくさんあり、あげ始めたらキリがないのですが、ひとつだけあげれば、化学療法による脱毛と、終了後生えてくる時の表現。

元々かなり毛量が多い→(1クール目)脱毛してやっと普通の毛量に→(次のクールで)落ち武者に→(その後)僧侶に。そして生えて来た時は「鞠藻になる(全方向同じ長さで伸びるから!)」

私は今、鞠藻状態です(笑)

このブログでも何度も紹介している国立がん研究センター・がん情報センターから発信されるような、エビデンスに基づいた情報と、冷静な体験記を併用して、がんに向き会えるといいな、と思います。

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友人から長らく借りていて、返したものの、自分の治療中の思い出として手元に置いておきたくて、結局買ってしまいました。