がんになりました

公衆衛生医が乳がん治療中に体験したこと、調べたこと、感じたこと、考えたことを記録していきます。

化学療法室

(初出2019年11月7日)

6月末からはじまった術前化学療法が先週木曜日に終了しました。

2週間ごとのdose dense EC療法が4回8週間、毎週のパクリタキセルが12週間の予定で3回やったところで、白血球数不足で2回延期。パクリタキセルと同系統で白血球を増やす薬(G-CSF)と併用できるドセタキセルに変更して3週ごとに3回。途中MRIの造影剤アレルギーでの延期もあったので、足掛け20週間でした。最後の化学療法前の白血球もギリギリだったので、この後これ以上下がるといけないとのことで、翌日にG-CSFを打って来ました。

まあ、長かったような、短かったような。考えたことはいろいろあります。

外来化学療法を受ける人が、老若男女こんなにいる。
「標準治療」が普及している。
副作用対策が進化している。
新薬は高い。
などなど、、、

最初に受けたdose dense EC療法というのは、以前は3週間おきにやっていたエピルビシン(E)とシクロフォスファミド(C)を併用する治療を、間隔を狭めることで治療効果をあげようというもの。ただ、間隔を狭めると白血球が下がりすぎるので、予防的にG-CSFを使うことになります。乳癌診療ガイドラインに記載されている治療です。

癌治療ガイドラインだけでなく、化学療法中の制吐剤治療ガイドラインもあるのです。嘔気嘔吐を催す抗がん剤は多くありますが、このガイドラインには、「催吐性リスク」が高度、中等度、軽度、最小度と分類されていて、どの分類にはどの制吐剤の組み合わせ、という医学的根拠に基づく治療方針が書かれています。

EC療法は、高度催吐性リスクがあり、吐き気止めがなければほぼ全員吐く、と言われていますが、ガイドラインに沿った制吐剤を受けていたおかげか、食欲不振や気持ち悪いのはありましたが、1度も吐くことはありませんでした。

ただし、その数はすごい。点滴前に経口制吐剤を飲んで、点滴の中には2種類の制吐剤が入っていて、終了後にはルーチンで3種類と頓用で1種類の経口制吐剤を処方されていました。

このうち、点滴内に入っている注射薬の1つ(アロキシ)と点滴前と終了後4日間服用する経口薬(イメンド)が新薬で高い。注射薬の方は15,068円/瓶。経口薬は点滴前が4,999円/カプセル、点滴後が3,409円/カプセル。

調べてみるとこの2つの制吐剤の導入は化学療法において画期的だったようで、恩恵にあずかることができた訳ですが、これだけ高いと躊躇する人もいるのでは?と公衆衛生医的関心にかられ、主治医に聞いてみました。「アロキシやイメンドはいいです、という患者さん、いませんか?」

ドクター曰く「総額でこのくらいかかりますよ、というお話はして、高額医療費の案内もしていますが、標準治療に組み込まれていますから、個々の薬の値段までは説明していません。今までそういう申し出はなかったですね。」

ひょっとして、ドクターには言えないのかもしれない、と思って化学療法室のナースにも聞いてみましたが、やはりそのようなことを聞かれた経験はないとのこと。これは、日本の国民皆保険のおかげでしょうか、、、

新しい治療が開発されれば、恩恵にあずかれる人は増えます。と同時に医療費の個人と社会の負担は大きくなります。どうなっていくことがいいのでしょうか。(まだ書きたいことはあるのですが、散漫になってきたので、また改めて。)

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